「100年先に伝えたい日本の美味しい鍋料理1」は、次の9品の鍋料理を紹介しています。
「柳川鍋」
「しゃぶしゃぶ」
「ぼたん鍋」
「まる鍋」
「きりたんぽ鍋」
「石狩鍋」
「はりはり鍋」
「軍鶏鍋」
「てっちり」
日本は四季がはっきりしている国ですから、料理にも季節感があります。夏には涼し気な料理が好まれ、冬には温かな料理が恋しくなります。鍋料理は、冬の寒さを楽しむ日本独特の美味しい料理です。
鍋料理のよいところは、何よりも熱々を食べられることです。通常の料理は、厨房や台所で作られてから食卓に運ばれるまでにどうしても間が空いてしまいます。その点、鍋料理は目の前で煮ながら食べるので時間差がありません。熱々もご馳走のうちなのです。
また、鍋料理は一つの鍋を大勢で囲んで食べることができます。家族や友人などの親しい人々が集まって、楽しい会話と美味しい食事を同時に満悦することができる料理です。同じ鍋から皆で具材を分かち合って食べる一体感と親近感は、別々の食器に盛られた料理を食べるときには得られない大きな喜びです。
鍋料理の具材に決まりはありません。肉や魚は野菜などのさまざまな食材が用いられ、その組み合わせは無限です。「寄せ鍋」のように、多くの具材を煮込んで複合的な味わいを生み出す鍋がある一方で、限られた具材だけを煮込んで純粋にその旨みを追求する鍋もあります。スッポンを使った「まる鍋」や河豚を使った「てっちり」などがその例です。
いずれもしても、鍋料理に共通している楽しみは、最後の「しめ」です。具材を食べ終わった後の残った汁にご飯を入れて雑炊にしたり、うどんを入れたりして食べることです。具材から出た旨みがたっぷり汁に残っているので、雑炊にしてもうどんにしても濃厚な味わいを堪能できます。最後の「しめ」を食べずして鍋料理を味わったとはいえません。
鍋料理の起源はわかっていませんが、囲炉裏の火にかけた大鍋の料理を家族が銘々に器に取り分けて食べたのが始まりであったかもしれません。昔の日本の家屋には、たいてい囲炉裏が備えられていましたから、そうした光景は日本各地で見られ、鍋料理は全国に存在しています。
郷土料理としても、鍋料理はそれぞれの地方の特産物とともに発展してきました。その地方に行かなければ味わうことができない鍋料理もたくさんあります。現在も伝統の味が各地で継承されています。
ところで鍋料理には、守らなければならない不文律があります。たとえば、煮えにくい具材を先に入れて、火の通りやすい具材を後に入れます。また、食べる速さに合わせて、鍋に入れる具材の量を調節する必要があります。アクも丁寧に取らなければなりません。好きなものだけ取ったり、一度取ったものを鍋に戻したりするのは御法度です。
そうした細やかな規則に目配りをする監督者のことを「鍋奉行」といいます。世界には多様な料理がありますが、監督者が食べ方を仕切るのは、唯一日本の鍋料理だけではないでしょうか。有能な鍋奉行がいると、鍋料理は一層美味しくなります。