おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

男の鍋料理と魚の鍋料理の微妙な違い


私は古い料理の文献を読むのが好きなので、

ときどき古書店に立ち寄ることがあります。

 

先日、昭和時代の古い料理雑誌を見つけました。

「殿方に喜ばれる料理」という特集がありました。

 

殿方(とのがた)という言葉は今どき使われませんが、

女性が男性を呼ぶときの敬称です。

 

当時の社会風潮として、男性が喜ぶ料理を作ることは、

女性の務めと考えられていたのかもしれません。

 

ジェンダーフリーという考え方がまだなかった時代であり、

「男子厨房に入るべからず」が通用していた時代です。

 

一般に、男性が家庭でも料理をするようになったのは、

日本が豊かになった高度経済成長期以降の時代です。

 

料理雑誌にも次第に「男の手料理」などの特集記事が

掲載されるようになりました。

 

最近見た雑誌にも「男の鍋料理」が載っていました。

男性が作る鍋料理の特集です。

 

漁師料理にも似た豪快な鍋料理が紹介されていました。

野趣あふれる鍋料理はたいへん魅力的です。

 

ところが、別の雑誌に「魚の鍋料理」がありました。

魚を素材にした鍋料理の特集です。

 

魚は寒い季節になると脂が乗ってくるので、

冬の鍋料理には最適な食材です。

 

別々に見ると全く不自然ではありませんが、

一緒に見るとちょっと驚きます。

 

「男が作る鍋料理」の文脈で読むと、

「魚が作る鍋料理」に思われます。

 

「魚を材料にした鍋料理」の文脈で読むと、

「男を材料にした鍋料理」に思われます。

 

そのような曲解をするのは私だけかもしれませんが、

何となく面白い題名です。

 

ところで、近年の料理雑誌には二つの特徴があります。

その一つは料理の写真の撮り方です。

 

意図的に料理の一点だけに焦点を合わせて、

あえて周辺がぼやけるように写しています。

 

それが現在の料理雑誌の写真の主流のようです。

どの雑誌を見てもそういう撮り方をしています。

 

その方がおしゃれに見えるのかもしれませんし、

美味しそうに見えるのかもしれません。

 

私は食器や盛り付けにも興味があるので、

全体がはっきり写った写真の方が好きです。

 

もう一つの特徴は、電子レンジを使ったレシピです。

必ず電子レンジのレシピが載っています。

 

電子レンジを批判するつもりは全くありませんが、

たいていの料理は電子レンジなしでも作れます。

 

紙面の都合上難しいかもしれませんが、電子レンジを

使わないレシピも併記してほしいと思います。

 

もっとも現代はネットの時代ですから、雑誌よりも

ネットから簡単にレシピを得ることができます。

 

私のように古書店をめぐって料理の文献を探す奇人は

いつかいなくなるのかもしれません。