拙著「お箸のお話」でも述べましたが、
お箸を使う国は日本だけではありません。
中国や韓国やベトナムなど、中国食文化圏に属する国では
古くからお箸が使われてきました。
しかし日本以外の国では、お箸の他にスプーンも使います。
お箸だけで食べるのは、日本の食文化の大きな特徴です。
日本のお箸は、主に木や竹で作られていますが、
他の国には、金属や象牙のお箸もあります。
とくに中国の宮廷料理では、銀のお箸が使われました。
その理由は、銀の光沢が美しいからではありません。
じつはたいへん重要な実用的な意味がありました。
それは、毒殺を防ぐことです。
古代中国の皇帝や国王は、つねに命を狙われていました。
日頃から暗殺や毒殺に警戒しなければなりません。
古来、毒殺には猛毒の「ヒ素」が使われました。
無色無味無臭の物質で、水に溶けやすい性質があります。
料理に混入しても気づかれない毒物です。
しかし、銀のお箸が料理の中のヒ素に触れると、
反応して色が変わるといわれていました。
そのため毒雑を防ぐことができると信じられていました。
銀のお箸は皇帝や国王の必需品だったのです。
実際に、銀はさまざまな物質と反応する金属です。
普通に使っていても黒ずんできます。
ヒ素の検出に効果があったかどうかは疑問ですが、
むしろ安心感を得られる効果があったと思われます。
本当に毒殺を防いでくれたのは、銀のお箸ではなく、
多くの毒見役の人々だったのではないでしょうか。