おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

信長は本当にワイン通だったのか

織田信長がたいへん珍しいもの好きだったことは

よく知られています。

 

南蛮渡来の美術品や工芸品や実用品などを蒐集し、

西洋の衣装を好んで身にまといました。

 

ポルトガル人宣教師ルイス・フロイスが謁見したときも、

多くの珍しい舶来の品々を信長に献上しました。

 

宣教師たちにとって布教活動を円滑に進めるためには

信長の後ろ盾がぜひとも必要でした。

 

天皇や将軍に勝るとも劣らない信長の絶大な権力を

ルイス・フロイスは見抜いていたのです。

 

信長がとくに気に入っていたのはワインです。

おそらくポルトガル産と考えられます。

 

同じくポルトガルから持ち込まれたワイングラスに

注いで優雅に飲んでいたようです。

 

ときには他の武将たちにもワインを振る舞って、

その反応を楽しんでいました。

 

初めてワインを飲む武将たちはたいてい困惑します。

これが酒なのかという渋い表情をします。

 

無理もありません。ブドウから作られるワインは、

米から作られる酒とは味も香りも全く違います。

 

それでも「口に合わぬか」と信長に睨まれれば、

美味しそうに飲み干すしかありません。

 

では、信長は本当にワインの味をわかっていたのでしょうか。

どうもそうではないようです。

 

というのは、信長はあまり酒が好きではなく、

そもそも味音痴だという説があるからです。

 

ルイス・フロイスの記録によると、信長は酒を飲まず、

食を節すると人物だったと評されています。

 

もちろん一滴も飲まないわけではなく、酒豪の多い当時の

戦国武将にしてみれば酒量が少なかったということです。

 

おそらく酒を飲んで気分が悪くなった姿を

見せたくなかったのかもしれません。

 

ワインを好んで飲んでいたのも美味しいからではなく、

珍しいからではなかったでしょうか。

 

当時のワインは、現代に流通しているワインに比べると

品質が高くありません。

 

しっかり温度管理されて輸入されていないからです。

船便で何年もかかって日本に運ばれてきました。

 

炎天下の赤道直下の海域も通過するので品質は劣化します。

少なくとも極上のワインではなかったと思われます。

 

もし信長が現代の最高級のワインを飲んだとしたら

どのような反応を示すでしょうか。

 

大満足するとも考えられますが、味音痴の信長のことですから、

激怒するとも考えられます。

 

「不味くて飲めぬ」と即座に刀を抜いてソムリエを打ち首に

してしまうかもしれません。

 

信長に仕える従者は命がけです。