おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

バカガイの「バカ」とは何か

貝類に中にはあまり聞こえのよくない名称があります。

「バカガイ」がそうです。

 

通称「アオヤギ」と呼ばれて流通していますが、

生物学上の正式名称は「バカガイ」です。

 

なぜ「バカガイ」なのか、名前の由来はさまざまです。

ばかにたくさん獲れるからという説が有力です。

 

また、生息する場所を頻繁に変える性質があることから

「場変え貝」が語源だという説もあります。

 

現在の幕張(まくはり)がかつての主産地でしたが、

昔は「馬加」と書いて「まくわり」と称したそうです。

 

読み方によって「馬加」は「バカ」とも読まれます。

そのため「バカガイ」と呼ばれたという説もあります。

 

諸説がありますが、必ずしも名前に侮蔑的な意味が

含まれているわけではないようです。

 

しかし、たとえ差別的な意味がないとしても、

あまり聞こえのよい名称ではありません。

 

そのため江戸前寿司のネタに取り入れられる際に、

「アオヤギ」という雅称が使われました。

 

さすがに「バカガイ」では都合が悪かったのでしょう。

お寿司のお品書きにも書きにくいと思います。

 

「今日はバカがお薦めです」などと寿司職人に言われると、

お客も何だかバカにされた気分になります。

 

ちなみに「アオヤギ」という名称は、「バカガイ」の足が

柳の葉に似ていることに由来するといわれています。

 

しかし本当の理由は、「バカガイ」の一大集積地の地名が

「青柳」だったことに由来するからです。

 

現在は「アオヤギ」という呼称が一般的になっていますが、

バカという言葉を排除すればよいというわけではありません。

 

それでは、ただの「言葉狩り」になってしまいます。

釣りバカ日誌」も「天才バカボン」も放送できなくなります。

 

差別用語の根底にある差別意識こそなくすべきなのです。