相撲はもともと神事として発達してきましたが、
興行として成立したのは江戸時代です。
専門に相撲を取ることを職業とした男たちは力士と呼ばれ、
相撲部屋に所属して共同生活を行いました。
力士の数が増えてくると、食事の支度も忙しくなり、
一人ずつ配膳したのでは間に合わなくなりました。
そこで部屋の力士が一緒に鍋を食べることにしました。
それがちゃんこ鍋の起源です。
ちゃんこ鍋にはいくつもの有用性があります。
まず、力士同士の連帯感が強くなります。
「同じ釜の飯を食う」ということわざがありますが、
同じちゃんこ鍋を食べることで仲間意識が生まれます。
大相撲では、同じ部屋の力士同士は対戦しません。
部屋の力士は、ライバルではなく仲間なのです。
ちゃんこ鍋は大切な情報交換の場でもあります。
一緒に鍋を囲んで相撲を語り合うことができます。
毎日ちゃんこ鍋では飽きると思われるかもしれませんが、
鍋の材料と味つけの組み合わせは無限にあります。
季節ごとに旬の素材も使いますから
じつに多彩な鍋ができます。
一度の食事で多種多様な食材を摂取できることも、
力士の健康を維持する上でたいへん有用です。
ちゃんこ鍋には、実利的な有用性もあります。
料理に時間がかからないことです。
鍋は、煮ながら食べることができる料理ですから、
材料の下準備さえできればすぐに食べられます。
また食器の数も少なくて済みます。
後片付けに手間がかかりません。
しかし、ちゃんこ鍋の最も大きな有用性は、
力士が作り方を習得できることです。
部屋に入門した新弟子は、まず「ちゃんこ番」を任されます。
そのため、力士は誰でもちゃんこ鍋を作ることができます。
今でこそ学生相撲出身の大卒力士は珍しくありませんが、
昔の力士の多くは中学を卒業してすぐに入門しました。
相撲を教えるだけでなく、立派な社会人に成長できるように
教育することは、部屋の親方とおかみさんの義務です。
その一環として「ちゃんこ番」という制度があります。
ちゃんこ鍋を作らせることは大切な教育なのです。
相撲は厳しい世界ですから、出世できる力士は限られます。
残念ながら、志半ばで相撲を断念する力士もいます。
他の職業にうまく転身できればよいのですが、
相撲の他に何もできないこともあります。
しかし、ちゃんこ鍋の作り方を知っていることは、
必ず何かの役に立ちます。
引退した力士がちゃんこ鍋の店を開くこともあります。
部屋に伝わる秘伝のちゃんこ鍋を提供しています。
往年の名横綱たちが食べていた同じ味のちゃんこ鍋を
味わうことができるのは感無量です。
実際に部屋でちゃんこ番を務めた引退力士だからこそ、
再現できる味です。
ちゃんこ鍋はじつに有用性の高い料理なのです。