おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

なぜ油揚げは中がスポンジ状になるのか

油揚げは、薄く切った豆腐を油で揚げた食材です。

厚く切った「厚揚げ」と区別されます。

 

しかし、単に厚さが違うだけではありません。

厚揚げは、内部まで火を通しません。

 

中は、生の豆腐の状態になっています。

そのため「生揚げ」とも呼ばれます。

 

一方、油揚げは内部まで火を通します。

中がスポンジ状になっています。

 

その秘密は、二度揚げにあります。

 

一度目は低温の油で揚げて、生地を膨らませます。

加熱によって、タンパク質が固まってきます。

 

固まった部分を水蒸気が通り抜けて穴が開きます。

そのため生地が膨らむのです。

 

二度目は高温の油で揚げて、生地の水分を飛ばします。

高温によって、タンパク質に皮膜ができます。

 

皮膜ができると、穴がしぼむことはありません。

冷めてもスポンジ状を保つことができます。

 

大豆タンパクの性質を上手に利用した製法です。

おかげで、油揚げはさまざま料理に使えます。

 

そもそも豆腐ですから、旨みがあります。

油で揚げることで、味にコクが生まれます。

 

スポンジ状なので、出汁が中まで滲み込みます。

生地を開いて詰めものもできます。

 

たとえば、「稲荷寿司」が代表的な料理です。

油揚げを甘辛く煮て、酢飯を詰めます。

 

関東では俵型、関西では三角形の稲荷寿司が主流です。

親しみを込めて「お稲荷さん」とも呼ばれます。

 

巾着(きんちゃく)も油揚げを使った詰めもの料理です。

具材を詰めて、カンピョウで結びます。

 

入れるのは、タケノコ、レンコン、インゲン、ニンジン、

ギンナン、シイタケなどの季節の具材です。

 

出汁で煮込んだり、おでん種に加えたりします。

優雅に「福袋」と呼ばれることもあります。

 

もちろん油揚げは、詰めもの料理ばかりではありません。

煮ても、焼いても美味しくいただけます。

 

庶民的な食材であり、皆に愛されています。

キツネもトンビも油揚げが大好きです。