かき氷は夏の風物詩ですが、その歴史はたいへん古く、
すでに平安時代の貴族たちも食べていました。
しかし、平安時代には冷凍技術がありません。
なぜかき氷があったのでしょうか。
それは、京都に氷室(ひむろ)があったからです。
氷を貯蔵しておく洞窟のことです。
京都は四方を山に囲まれた盆地です。
夏は暑く、冬は寒い土地柄です。
日当たりの悪い山陰を選んで氷室を掘り、
冬に積もった雪を貯えておくのです。
夏になると氷室から取り出した氷が朝廷に献上されました。
おかげで平安貴族はかき氷を楽しむことができました。
「あてなる」とは「上品な」という意味です。
削り氷(ひ)にあまづら入れて新しき金椀(かなまり)に入れたる
「削り氷」はかき氷のことです。「あまづら」をかけて、
新しい金属の器に入れるのが上品だと述べています。
「あまづら」とは甘葛のことです。
ツタのような蔓性の植物です。
伸びた蔓を切り取り、中から樹液を搾り出します。
それを煮詰めて甘味料としました。
いわばメイプルシロップのようなものですが、
樹液はわずかしか採れず、しかもほのかな甘みです。
平安時代には、まだ砂糖が普及していませんから、
「あまづら」はたいへん希少な甘味料でした。
天然の水に高価な甘味料をかけて食べるのですから
何とも贅沢なかき氷です。
日本最初のかき氷店が誕生したのは明治時代の初めです。
横浜の馬車道通りに開業しました。
使われた氷はもちろん天然氷ですが、
一体どこから運んできたのでしょうか。
何とアメリカのボストンから輸入していました。
「ボストン氷」というブランド氷だったそうです。
しかし、あまりに高価な氷であったために
国内の天然氷が模索されました。
そして、ついに見つかったのが北海道の函館の天然氷です。
五稜郭の濠にできる氷が良質であることがわかりました。
その天然氷が横浜に運ばれて、かき氷は大人気となりました。
夏の炎天下に、かき氷を求める長蛇の列ができたそうです。
じつは、現在も天然氷を生産しているところがありますが、
栃木県の日光に多いそうです。
気候が天然氷を作るのに適していることと
美味しい天然水に恵まれているからです。
天然氷作りは、自然の池を利用して晩秋から始まります。
水面の落ち葉などを取り除き、天然水を流し入れます。
マイナス5度前後の気温でゆっくり凍らせ、
2週間かけて天然氷を作ります。
天然氷は純度が高く、見事な透明感を持っています。
氷が固くて融けにくいために薄く削ることができます。
そのため、ふわふわのかき氷ができます。
天然氷のかき氷はひと味違います。
まるで平安貴族のような贅沢が味わえます。