おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

ポパイのホウレンソウはなぜ生ではなく缶詰なのか

ポパイは、アメリカのコミックでありアニメーションです。

日本では1950年代にテレビ放送が始まりました。

 

主人公のポパイがホウレンソウの缶詰を食べると、

超人的パワーを発揮して大活躍する物語です。

 

もちろんいつもホウレンソウを食べるわけではありません。

敵と戦って絶体絶命のピンチに陥ったときだけです。

 

戦う相手は、たいてい恋のライバルのブルートです。

いかついヒゲ面の大男で、典型的な悪役です。

 

ポパイの恋人のオリーブにブルートが強引に言い寄ると、

オリーブが「助けて、ポパイ」と叫びます。

 

ポパイが駆けつけますが、腕力ではブルートに敵いません。

すぐにボコボコにやられてしまいます。

 

しかし、そこでポパイがホウレンソウの缶詰を食べると、

たちまちパワーが湧いてブルートを撃退します。

 

まるで新しく顔を取り替えたばかりのアンパンマンのように

劇的に元気を回復して大活躍するのがお決まりです。

 

ポパイはいつも缶詰を持ち歩いているわけではないのですが、

なぜかピンチになるとホウレンソウの缶詰が出てきます。

 

どうしてそこに缶詰があるのと突っ込みたくなりますが、

ポパイは全くそれを気にしていません。

 

しかも、缶詰を開けるときに缶切りを使いません。

片手で缶を握りつぶして開封します。

 

ピンチのときでさえ、それほどの恐るべき握力があるならば、

ホウレンソウ要らないでしょとまた突っ込みたくなります。

 

突っ込みどころ満載のところがポパイの魅力です。

その点も、どこかアンパンマンと似ています。

 

じつは、ポパイがホウレンソウを食べるのは理由があります。

野菜の消費を推進する団体が映画のスポンサーだからです。

 

野菜の中でもホウレンソウは栄養価が高い割に

子どもたちにあまり好かれていません。

 

そこでアメリカの親は子どもたちにポパイを見せました。

ホウレンソウを食べるとこんなに強くなれるのだと。

 

ポパイのおかげで、子どもたちはホウレンソウを食べました。

スポンサーの狙いは功を奏しました。

 

しかし、なぜホウレンソウの缶詰なのでしょうか。

なぜ生のホウレンソウではないのでしょうか。

 

その理由の一つは、アメリカが広大な国だからです。

生野菜の全国的な流通はそう簡単ではありません。

 

ジェームス・ディーンが主演したアメリカ映画に

エデンの東」という作品があります。

 

カリフォルニア州でレタスを栽培している一家が、

鉄道で大都市に輸送しようとする物語です。

 

氷で冷やしてレタスを輸送するのですがうまくいかず、

ジェームス・ディーンも苦悩します。

 

例によって、額にしわを寄せて伏目がちになりながら。

 

ポパイの時代は、まだ冷蔵輸送技術が発達していないので、

新鮮な野菜を全国に流通することはできませんでした。

 

そこでホウレンソウの水煮を缶詰にしました。

低コストで流通も保存もできます。

 

ただし、ただの水煮ですからさほど美味しくはありません。

ポパイにとって青汁を飲む感覚だったのではないでしょうか。

 

現在はホウレンソウの缶詰の出荷量は少なくなりました。

優れた冷凍技術が発達したおかげです。

 

ホウレンソウを急冷することで高品質を保つことができます。

しかも、使う分だけ解凍することもできます。

 

もし現代においてポパイの物語を描くならば、

ホウレンソウの缶詰は必要ありません。

 

ポパイがピンチのときは、なぜか冷凍ホウレンソウが出てきます。

そしてなぜか電子レンジもそばにあります。

 

ポパイは急いで冷凍ホウレンソウを電子レンジで解凍して食べます。

そして、超人的なパワーが湧いてきて敵をやっつけます。

 

突っ込みどころ満載のところがポパイの魅力です。