おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

王様のトランペットのキノコ

「王様のトランペット」という名前のキノコがあります。

英語でもフランス語でもイタリア語でもそういう名前です。

 

じつは「エリンギ」のことです。

 

エリンギはよくイタリア語の名称であると紹介されますが、

正しくはラテン語であり、現代イタリア語ではありません。

 

イタリア人ならば「エリンジ」と発音するでしょう。

ただし通称は「王様のトランペット」です。

 

まるで王宮で鳴り響くトランペットの形をしています。

それが名前の由来だと思います。

 

エリンギが日本にやってきたのは約30年前です。

初めて国内で人工栽培に成功しました。

 

日本には自生しているエリンギはありません。

流通しているのは全て栽培種です。

 

当初は名前が定まっていませんでしたが、

「白アワビ茸」という和名がつけられました。

 

その理由は、エリンギがヒラタケの仲間であり、

ヒラタケの別名が「アワビ茸」だからです。

 

実際にコリコリした食感はアワビに似ています。

全体的に白っぽい色もアワビにそっくりです。

 

ところが「白アワビ茸」という名称は定着しませんでした。

結局、エリンギと呼ばれることになりました。

 

アワビ的な料理に限定されるのを避けたのかもしれません。

エリンギという名前の方が、未知の料理を予感させます。

 

しかし「王様のトランペット」も捨て難い名前です。

いっそ省略して「オウトラ」というのはどうでしょうか。

 

何だか大谷とトラウトを合わせたようなキノコですが。

 

ちなみにフランスには「王様のトランペット」の他に、

「死のトランペット」というキノコもあります。

 

毒キノコではなく、ちゃんとした食用のキノコです。

一体誰が食べるのでしょうか。