おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

パンの耳の耳よりな話

食パンの周囲の皮の部分を「パンの耳」といいます。

サンドウィッチを作るときに切り取られてしまう部分です。

 

英語では、「パンのかかと」と呼ぶそうですが、

正しくは「クラスト」という名称です。

 

パン屋さんでは、よくパンの耳をまとめ売りしています。

耳を疑うほど安いお値段です。

 

耳だけに。

 

お買い得なので、私もときどき買い求めます。

パンの耳は使い勝手のよい食材です。

 

よく知られているのは、パンの耳のラスクです。

ラスクとはパンを二度焼きしたお菓子のことです。

 

パンの耳をバターで焼いて軽く焦げ目をつけ、砂糖をまぶします。

ハチミツやメープルシロップをかけても美味しいです。

 

揚げパンにして砂糖をまぶしても美味しいです。

 

パンの耳は、フレンチトーストにもピザにもアレンジできます。

グラタンにもキッシュにもカナッペにも使えます。

 

オニオングラタンスープに、トーストしたパンの耳を添えて、

パルメザンチーズを磨り下ろすとまるで本格的なフレンチです。

 

パンの耳は洋食だけでなく、じつは和食にも利用できます。

私はパンの耳を使って漬け物を作ります。

 

まず、糠漬けの糠床のように「漬け床」を用意します。

糠床ならぬ「耳床」です。

 

パンの耳を細かく千切り、水と塩とドライイーストを加えます。

それをよく練って、糠味噌の状態にします。

 

風味づけに、昆布と種を取り除いた鷹の爪を混ぜます。

私は少しだけビールを加えます。

 

漬けている途中でアルコールが抜けるので心配要りませんが、

念のため、お子さんやお酒の弱い方は避けた方が無難です。

 

漬け床の用意ができたら、いよいよ野菜を漬け込みます。

糠漬けに向く野菜ならば「耳漬け」にも適しています。

 

キュウリ、ナス、ダイコン、カブ、ニンジンなどが定番です。

セロリ、ミョウガ、オクラもなかなか美味しいです。

 

漬け床に埋めるように漬けて冷蔵庫に保存します。

数日で美味しく仕上がります。

 

何度か使っていると、野菜から少しずつ水が出てきます。

漬け床が水っぽくなったらパンの耳と塩を追加します。

 

ただし、残念ながら糠床のように何年も使えるわけではありません。

耳床の寿命はせいぜい一、二週間といったところでしょうか。

 

古くなったら、また新しく耳床を作り直します。

その都度、違う味わいを楽しめます。

 

浅漬けのような爽やかな美味しさが魅力です。

美味しいという声が耳に聞こえてくるようです。

 

耳だけに。