おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

なぜ芋煮会が行われる地域は限られるのか

秋の楽しい伝統行事の一つに「芋煮会」があります。

山形県宮城県などで盛んに行われています。

 

河川敷に集まって、大きな鍋で里芋を料理する行事です。

他の食材も一緒に煮込んだ「芋煮鍋」を作ります。

 

地域によって使われる食材や味つけが異なりますが、

共通しているのは、必ず里芋が入ることです。

 

芋煮会は十月下旬から十一月初旬にかけて行われますが、

それは里芋の収穫時期と重なるからです。

 

いわば里芋の収穫を祝う秋の感謝祭でもあります。

秋の一日をみんなで楽しく美味しく過ごします。

 

まもなくやって来る厳しい冬を乗り越えるために

地域の人々の結束を強める機会でもあるのです。

 

秋の芋煮会は、春のお花見と並ぶ季節の風物詩です。

 

しかし、春のお花見がほぼ全国的に行われるのに対して

秋の芋煮会が行われる地域は限られています。

 

主に山形県宮城県を中心とする東北地方です。

それはなぜでしょうか。

 

どうやらその理由は、里芋の保存方法にあるようです。

 

一般に、芋類は低温障害を起こしやすいのですが、

とくに里芋は寒さに弱い作物です。

 

現在は温度と湿度を管理できるハイテク貯蔵庫もありますが、

越冬貯蔵するためには、低温を避けなければなりません。

 

そのため昔は泥付きのまま風通しのよい場所に保存していました。

あるいは、もみ殻を被せて地中に埋めていました。

 

それでも貯蔵しきれない里芋は、寒い冬を前にして消費されます。

それが、芋煮会の原型を生んだのではないかと考えられています。

 

ですから、里芋の保存がさほど難しくない温暖な地域では、

芋煮会の習慣がありません。

 

また、かつて里芋栽培の北限を超えていた寒冷な地域でも、

やはり芋煮会の習慣がありません。

 

芋煮会が行われる地域が限られるのは理に適ったことなのです。