秋の楽しい伝統行事の一つに「芋煮会」があります。
河川敷に集まって、大きな鍋で里芋を料理する行事です。
他の食材も一緒に煮込んだ「芋煮鍋」を作ります。
地域によって使われる食材や味つけが異なりますが、
共通しているのは、必ず里芋が入ることです。
芋煮会は十月下旬から十一月初旬にかけて行われますが、
それは里芋の収穫時期と重なるからです。
いわば里芋の収穫を祝う秋の感謝祭でもあります。
秋の一日をみんなで楽しく美味しく過ごします。
まもなくやって来る厳しい冬を乗り越えるために
地域の人々の結束を強める機会でもあるのです。
秋の芋煮会は、春のお花見と並ぶ季節の風物詩です。
しかし、春のお花見がほぼ全国的に行われるのに対して
秋の芋煮会が行われる地域は限られています。
それはなぜでしょうか。
どうやらその理由は、里芋の保存方法にあるようです。
一般に、芋類は低温障害を起こしやすいのですが、
とくに里芋は寒さに弱い作物です。
現在は温度と湿度を管理できるハイテク貯蔵庫もありますが、
越冬貯蔵するためには、低温を避けなければなりません。
そのため昔は泥付きのまま風通しのよい場所に保存していました。
あるいは、もみ殻を被せて地中に埋めていました。
それでも貯蔵しきれない里芋は、寒い冬を前にして消費されます。
それが、芋煮会の原型を生んだのではないかと考えられています。
ですから、里芋の保存がさほど難しくない温暖な地域では、
芋煮会の習慣がありません。
また、かつて里芋栽培の北限を超えていた寒冷な地域でも、
やはり芋煮会の習慣がありません。
芋煮会が行われる地域が限られるのは理に適ったことなのです。