若い頃にイタリアを旅行したことがあります。
バスに揺られて田舎の街をめぐりました。
イタリアの旅を楽しむコツは、焦らないことです。
バスも電車も時間通りに動くことはありません。
どんなに遅れても気にしない心構えが大切です。
それでも驚くことがいくつもあります。
日本では考えられないことが起こるのです。
遠くからおじいさんがバスに手を振っていると、
急にバスが路線から外れてそこに向かいます。
そして、バス停でもないのにおじいさんを乗せます。
まるでそうするのが当然であるかのように。
バスの乗客たちも、誰ひとり文句を言いません。
それどころか、顔見知りらしく挨拶を交わします。
やあ、じいちゃん、元気そうだね、とか何とか。
もちろんイタリア語で。
乗ってきたおじいさんはワインを取り出します。
そしてコップに注いで飲み始めます。
一杯飲み終わると、今度は周りの乗客にも勧めます。
次々とワインの回し飲みが始まります。
すると、他の乗客がチーズを取り出して切り分けます。
バスの中が突如としてバールに早変わりです。
皆とても楽しそうに飲んで食べて話しています。
啞然としている私にも声がかかります。
そこのお若いの、おまえさんもどうだい、とか何とか。
もちろんイタリア語で。
驚いたことに、バスの運転手にもワインを勧めます。
さすがに苦笑して断わっていましたが。
美味しいものを皆で分かち合うのがイタリア流です。
分かち合う喜びをよく知っている人々です。