おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

干し芋の優しさ

干し芋は、蒸したサツマイモの皮を剥き、薄く切って干したものです。

サツマイモの自然な甘みを味わうことができる食品です。

 

発祥は静岡県といわれていますが、国内生産の約9割は茨城県です。

土壌や気候などの自然条件が干し芋の生産に適しているそうです。

 

干し芋に使われるのは、「タマユタカ」という品種です。

「紅あずま」や「鳴門金時」ほど有名ではありません。

 

干し芋以外にほとんど使われることがない品種です。

まさに干し芋になるために生まれてきたサツマイモです。

 

皮が白くてごつごつして何だかサツマイモらしくありませんが、

干し芋になると見事な飴色に変身します。

 

丸干しにすることもありますが、通常は薄く切って平干しにします。

切るときは、通称「ペンペン」と呼ばれるスライサーを使います。

 

ギターの弦のように、ピアノ線を等間隔に張った道具です。

きっと指で弾くとペンペンと音が響くのだと思います。

 

1週間ほど干すと、干し芋の表面に白い粉が現れます。

サツマイモに含まれる糖分が結晶化したものです。

 

最近は、あまり乾燥させない軟らかい干し芋も出ていますが、

本来は保存食ですから、硬くて噛み応えがあります。

 

ゆっくり噛んでいると口の中にサツマイモの甘みが広がります。

本当に優しい美味しさです。

 

おそらく11年前の震災のときも多くの人がそう感じたことでしょう。

お腹を満たすだけでなく、心を癒す優しい美味しさです。

 

復興が進んでも、悲しみと苦しみが消えることはありません。

皆さんの心に平穏が訪れることを願わずにはいられません。