おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

大学芋の大学とは何か

大学芋は、乱切りにした一口大のサツマイモを油で揚げて

蜜をからめて黒ゴマを振った料理です。

 

料理というより、おやつと言った方が正しいかもしれません。

昔から万人に愛されているおやつです。

 

ところで、どうして大学芋という名前がついたのでしょうか。

じつは詳しいことはわかっていません。

 

たいていの食べものの名前の由来がそうであるように

大学芋の命名についても諸説があります。

 

昭和期に学生街であった東京の神田や駿河台辺りで売り出され、

大学生に人気があって大学芋と呼ばれたという説があります。

 

おそらく、お腹を空かせた大学生を大満足させたのでしょう。

旨そうに大学芋を頬張る当時の大学生の顔が目に浮かびます。

 

ところで、なぜ大学芋には蜜を絡めるのでしょうか。

 

素揚げにしたサツマイモに飴を絡める中華料理があります。

その影響ではないかとも言われています。

 

実際に関西地方では中華ポテトという名の惣菜があります。

しかしそれは大学芋とは似て非なる料理です。

 

単純に昔のサツマイモが甘くなかったからではないでしょうか。

商品化するには素揚げだけでは物足りなかったと考えられます。

 

また、衣に包まれた天婦羅のサツマイモとは違って、

素揚げにすると内部の水分が抜けてぱさついた食感になります。

 

それを補うために蜜が必要だったとも考えられます。

いずれにしても、大学芋と蜜は切り離せない関係です。

 

私はいつも大学芋の蜜を作るときにきび砂糖を使います。

 

本当はコクのある黒糖を使いたいのですが、

仕上がりが色濃くなり過ぎてしまうのが難点です。

 

上白糖であればきれいな色に仕上がりますが、まろやかさに欠けます。

きび砂糖を使うと甘みも見た目もちょうどよい具合に仕上がります。

 

揚げ立てのサツマイモをきれいに蜜に絡めるには、

とにかく手早くやらなければなりません。

 

フライパンにきび砂糖を入れて、少量の水を加え加熱します。

どの程度煮詰めるか、しっかり頃合を見計らう必要があります。

 

煮詰め方が弱いと蜜にはなりません。ただの砂糖水です。

煮詰め過ぎると水飴のように固くなってしまいます。

 

フライパンが泡立ってジュワジュワと音を立てたところで

サツマイモを入れて素早く絡めます。

 

すぐに大皿に移して芋と芋がくっつかないように並べます。

蜜が冷えないうちに黒胡麻を均等に振ります。

 

わずか数分間の作業ですが、真剣勝負です。

それによって大学芋の風味が決まります。

 

しかし熱々の素揚げに塩を振っただけでもまた旨いものです。

もちろん蜜を絡ませなければ大学芋とは呼びません。

 

大学芋を作る工程を途中で辞めてしまうので、

私はこれを「退学芋」と呼んでいます。