大きな専用の釜をリヤカーに積んだ石焼き芋屋さんは冬の風物詩です。
「いしやーきいもー」の美声を聴くと、思わず買い求めたくなります。
近年はこうした石焼き芋屋さんをあまり見かけなくなりましたが、
いつ頃から移動式の販売が始まったのでしょうか。
リヤカーを使った「引き売り屋台」が考案されたのは戦後のことです。
ようやく食糧統制が解けてサツマイモが流通するようになった時期です。
ほくほくの石焼き芋が手軽に食べられるとあって人気を博しました。
冬の風物詩として、都市部での需要が高まり全国に広がりました。
その石焼き芋屋さんの仕事を支えたのは、じつは出稼ぎの人々でした。
寒冷な農村地域では、雪に閉ざされる冬の間は農閑期です。
そこで冬になると都市部に出かけて主に建設業や運送業に携わります。
中には石焼き芋屋さんになる人も多かったようです。
おそらく石焼き芋屋さんの組合のような組織があったのだと思います。
そこから屋台を借り受け、サツマイモを仕入れたのではないでしょうか。
やがて春が来て、石焼き芋がそろそろ売れなくなってくると、
たくさんのお土産を抱えて家族の待つ故郷に帰っていきました。
そして春から秋にかけては忙しい農作業に追われて、
また冬になると石焼き芋屋に転身するのです。
現在は移動式の屋台は少なく、固定販売に変わってきています。
スーパーマーケットやコンビニエンスストアでも売っています。
石焼き芋を食べたいときにいつでも買いに行くことができますが、
いつ石焼き芋屋さんが来るかなというわくわく感がなくなりました。
さらに高性能の電子レンジやオーブントースターが普及してきて
家庭でも美味しい焼き芋を作ることができるようになりました。
お好みでほくほくした食感もしっとりした食感も楽しめます。
それはそれで幸せな時代だと思います。
しかし、子どもの頃に小銭を握りしめて石焼き芋を買いに行くと
おじさんが熱々の大きな芋を新聞紙に包んでくれました。
それを胸に抱えたときの温かさと甘い香りもまた幸せな思い出です。
石焼き芋屋のおじさん、どうもありがとうございます。