おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

身欠きニシンはなぜ米のとぎ汁で戻すのか

古くから伝わる調理方法には必ず理由があります。

 

たとえば、竹の子を茹でるときは米糠と鷹の爪を使います。

山菜のアク抜きにはミョウバンを使うと美味しくできます。

ナスの糠漬けに鉄釘を入れておくと色よく仕上がります。

 

なぜそのように調理するとよいのかわかりませんが、

おそらく科学的な根拠があるのだと思います。

 

身欠きニシンを戻すときも米のとぎ汁を使います。

米のとぎ汁に一晩浸しておくと軟らかくなります。

 

昔の身欠きニシンはカツオ節並みに堅かったので、

一晩どころか数日間も浸しておきました。

 

今は手間のかかる食材は消費者に敬遠されてしまいます。

戻す必要のない半生の身欠きニシンも流通しています。

 

しかし、米のとぎ汁は軟らかくするだけではありません。

身欠きニシンを美味しくする効果もあります。

 

ニシンは脂の多い魚です。乾燥させる過程で脂が酸化されます。

それが雑味や渋味を生み出す原因となっています。

 

米のとぎ汁には、酸化した脂を分解する酵素が含まれています。

身欠きニシン特有の臭みを取り除いてくれます。

 

軟らかく戻った身欠きニシンは水洗いして汚れを落とします。

残っているウロコや小骨を丁寧に取り除きます。

 

番茶で下煮すると風味豊かになると言われていますが、

下煮するかしないかはお好み次第です。

 

醤油、砂糖、味醂、日本酒で炊き上げると美味しくいただけます。

一般に「甘露煮」「甘辛煮」「旨煮」と呼ばれています。

 

京都名物の「にしんそば」は、かけそばに甘露煮を乗せたものです。

京都の人々はニシンの美味しい食べ方をよく知っています。

 

ニシンは京都で獲れませんが、その持ち味を十分に使いこなしています。

山に囲まれた土地だけに、鮮魚よりも干魚の扱いに長けているようです。

 

にしんそばを考案したそば職人は天才だと思います。