おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

世界を救う昆虫食その1 イナゴ

イナゴの佃煮については以前にも書いたことがありますが、

昔は全国各地で見られた一般的な食べものでした。

 

イナゴは稲の害虫ですから、稲作農家にとっては天敵ですが、

同時に、タンパク質の貴重な補給源となっていました。

 

とくに海から離れた内陸部では、海産物の入手が困難であり、

魚の代わりにイナゴからカルシウムを摂取してきました。

 

しかし、稲刈りの季節によく見かけたイナゴも、農薬の普及によって

ドジョウやタニシと一緒に田んぼから姿を消しました。

 

今でも観光地の土産店などでイナゴの佃煮が売られていますが、

観光客がときどき物珍しさに買う程度です。

 

イナゴはたしかに見た目には抵抗感があるかもしれません。

しかし味と食感は小エビなどの甲殻類に近い感じがします。

 

私の故郷でも日常的に食べられている惣菜でした。

小さい頃から食べ慣れた惣菜は抵抗感がありません。

 

むしろ、子どもの頃はイナゴを捕まえる楽しみがありました。

竹籠にたくさん捕まえて帰ると祖母に褒められました。

 

自分で捕まえた獲物を食べるのは、大袈裟な言い方をすれば

原始の狩猟民の喜びを追体験していたのかもしれません。

 

佃煮の作り方も祖母から教わりました。

 

捕獲したイナゴは数日間籠に入れて絶食させます。

体内の不要物を排出させるためです。

 

その後水洗いしてから大きな鍋で炒ります。

舌触りに悪い翅やトゲトゲのある後ろ脚は取り除きます。

 

醤油と砂糖で甘辛く煮込むと独特の良い香りがします。

作りたてよりしばらく味を馴染ませた方が美味しいようです。

 

残念ながら今ではイナゴを獲る機会がありません。

作り方を知っていても佃煮を作ることはありません。

 

できれば後世に残したいと願う料理です。