おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

ブリ大根に一つだけ不満があるとすれば

ブリ大根はブリのアラと大根を炊き合わせた料理です。

数あるブリ料理の中でも広く庶民的に愛されています。

 

寒い季節にはブリが旬を迎えます。

それを待つように大根も美味しくなります。

 

美味しいブリ大根を作るには新鮮なブリが必要です。

ブリの切身がお買い得になるときがチャンスです。

 

切身が安くなれば、アラも安くなるからです。

切身は照り焼き用に、アラはブリ大根用に買い求めます。

 

アラに塩を振ってしばらくおいてから全体に熱湯をかけます。

たっぷりの水で洗ってウロコや血合いを丁寧に落とします。

 

大根は輪切りして皮を剥き、面取りをして水から炊き上げます。

少し米粒を一緒に入れると色ツヤが出ます。

 

ショウガの薄切り、醤油、砂糖、味醂、日本酒で味を調えます。

ブリを入れて、大根に味が滲みるまで煮込みます。

 

器に盛ってからショウガの千切りを添えて出来上がりです。

ブリのアラを見事に活かした料理です。

 

一つだけブリ大根に不満があるとすれば、その名称です。

ブリ大根というのは、あまりにも率直過ぎる気がします。

 

私は以前、拙著「四季の菜摘み」でも書きましたが、

料理の名称は美しくなければならないと常々考えています。

 

もう少し趣のある名前でもよいのではないでしょうか。

 

たとえば、大根の古称「すずしろ」に因んで「ブリのすずしろ煮」とか、

琥珀色に透き通る大根に因んで「ブリの琥珀煮」はどうでしょうか。

 

出世魚のブリにあやかって「昇進煮」も縁起がよいかもしれません。

「精進煮」の駄洒落で受け入れられると思います。

 

それでもやはり、ブリ大根はブリ大根でしょうか。