トンカツはいつ、どこで生まれたのでしょうか。
トンカツは今では日本食としてすっかり定着していますが、
日本人が豚肉を食べるようになったのは文明開化の時代です。
当時横浜にあった西洋料理店で、高座豚に天ぷらのような衣をつけて
油で揚げた料理を売り出したところ人気を博したそうです。
高座豚というのは、横浜に居住する外国人の食用のために
神奈川県の旧高座郡で飼育されていた豚のことです。
おそらくこれがトンカツの原型のような料理ではないかと思います。
ポークカツレツという名前が初めてメニューに登場するのは、
東京銀座の老舗の西洋料理店と伝えられています。
明治時代の終わりの頃です。
初めはデミグラスソースを使って豚の薄切り肉をソテーに仕立て、
付け合わせには温野菜を添えていたそうです。
いわゆるフランス料理の王道を行くような調理法だったようです。
それが少しずつ日本人の味覚に合うように改良されていきました。
薄切り肉のソテーの代わりに厚切り肉をフライにしました。
そしてデミグラスソースの代わりにウスターソースを使いました。
これこそ私たちのよく知っているトンカツの誕生です。
トンカツがいつ、どこで生まれたか正確にわかっていませんが、
大正から昭和の初期には現在の料理方法になっていたようです。
また、ポークカツレツの別称としてトンカツという名前が登場します。
やがてトンカツという名前の方が一般的に使われるようになり、
ポークカツレツとは呼ばれなくなります。
トンカツが日本人に愛されるようになった大きな理由の一つは、
キャベツの千切りではないかと私は思います。
千切りなどと言うと若い人に笑われてしまうかもしれません。
今風に言えばキャベツのコールスローです。
トンカツとキャベツの千切りは相思相愛の仲ですが、
初めから添えられていたわけではありません。
日露戦争が始まるころ、ある店の若い料理人が兵役に取られて、
厨房の人手が足りなくなりました。
そこで手間のかかる温野菜を付け合わせにするのを止めて、
簡単に刻んで作れるキャベツの千切りに替えたのが始まりです。
しかしこれが大当たりします。
生のキャベツのおかげで油っこいトンカツをさっぱりと食べられます。
しかもソースのしみたキャベツがまた絶妙の美味しさです。
以来ずっとトンカツの相棒として定着しています。
もしトンカツがキャベツの千切りと出会っていなければ、
果たして今日のような国民食になっていたでしょうか。
運命の出会いと言えるかもしれません。