和菓子の中でゆべしほど多彩な顔を持つものはありません。
日本各地にさまざまな味と形のゆべしがあります。
ゆべしを漢字で書くと「柚餅子」です。
すなわち柚子を使った餅のお菓子を意味します。
しかし、もともとゆべしはお菓子ではなく保存食だったようです。
今から1,000年ほど前から作られたと伝えられています。
携帯しやすいように柚子をくり抜いた「柚子釜」を利用しました。
そこに餅米粉と味噌を入れて蒸して乾燥させた食品だったようです。
そのため、ゆべしの語源は「柚干(ゆぼし)」だという説がありますが、
もしかしたら「柚飯(ゆめし)」なのかもしれません。
私は福島の生まれですが、ゆべしは福島の銘菓として有名です。
しかし福島のゆべしに柚子は使っていません。
一般にゆべしといえば「くるみゆべし」のことを指します。
なぜ柚子の代わりにクルミを使うようになったのかわかりませんが、
昔は柚子が手に入りにくかったのではないかと考えられます。
柚子は柑橘類の中では比較的寒さに強い果実です。
栽培の北限は北関東あたりといわれています。
面白いことに、西日本で主流とされる柚子を使ったゆべしは、
北関東から東北にかけて姿を消します。
それに代わってクルミを使ったくるみゆべしが登場します。
柚子の生産可能な地域と見事に入れ替わっています。
ゆべしが菓子として普及するにつれて、柚子釜を使ったゆべしは
「丸ゆべし」としての地位を築いていきます。
薄く切られた丸ゆべしは透き通るような美しい飴色をしています。
甘さとほろ苦さが混然とした風味を生み出しています。
丸ゆべしは私が食べ慣れてきたくるみゆべしとは違った味ですが、
素材の個性を生かそうとする先人の創意工夫が感じられます。
ここは一言「旨いと言うべし」でしょうか。