イベリコ豚はイベリア半島で飼育されている豚の品種です。
スペイン語で「セルド・イベリコ」といいます。
純血のイベリア種だけでなく一部の交配種も含まれますが、
スペイン政府の認証を得たものだけがイベリコ豚と呼ばれます。
イベリコ豚は黒い脚と黒い爪が特徴です。
そのため「パタ・ネグラ(黒い脚)」の異名もあります。
広大なコルク樫の森に放牧され、ドングリを食べて育ったものは
イベリコ豚の中でも「ベジョータ」という最高ランクに位置付けられます。
肉質は上品で味わいは深く、脂身はさらりと甘味があるそうです。
ベジョータとはスペイン語でドングリを意味します。
ドングリを食べて育つので脂身にはオレイン酸が多く含まれています。
同じくオレイン酸を含むオリーブオイルのような風味があるそうです。
「あるそうです」というのは私も食べたことがないからです。
ベジョータは流通量の少ない希少な豚肉だそうです。
日本でイベリコ豚が知られるようになったのは十数年前のことです。
イベリコ豚の生ハム「ハモン・イベリコ」の輸入が解禁された頃です。
私もそのとき初めてイベリコ豚の名前を知りました。
最初に聞いたときは「イベリ子豚」だと思いました。
「三匹の子豚」のような童話かなと。
ところで豚肉は英語で「ポーク」といいますが、
子豚の肉は何というのでしょうか。
英語には「ピギー」や「ピグレット」という言葉がありますが、
それは生きている子豚を指すもので肉のことではありません。
牛肉は「ビーフ」、子牛の肉は「ヴィール」といいます。
また羊肉は「マトン」、子羊の肉は「ラム」といいます。
牛肉と羊肉は成長の違いによって肉の名前を区別します。
しかし豚肉は区別しません。
その違いはどこにあるのでしょうか。
おそらく牛と羊が草食で、豚が雑食だからではないでしょうか。
牛も羊も母乳を飲んで育つ間は肉が淡白で臭みがありません。
草を食べるようになると消化するための酵素が体内に分泌されます。
それが肉の臭みを生み出すと考えられています。
ですから当然料理方法も変わってきます。
食材としての性質の違いを明確にしなければなりません。
そのために名前を変えるのではないでしょうか。
豚は草だけでなく木の実や穀物や虫などの小動物も食べます。
成長過程において肉質が急に変化することはありません。
子豚の肉を珍重する理由がなく名前を変えないのだと思います。
むしろイベリコ豚のように十分な放牧期間を取ることによって
美味しい豚に成長します。
イベリコ豚は決してイベリ子豚ではないのです。