月桂樹はクスノキ科の常緑広葉樹です。
清々しい香りの葉が生い茂ります。
乾燥した葉は煮込み料理やマリネに使われます。
肉の臭みを消すだけでなく豊かな香りを与えます。
ほんの数枚加えるだけで料理の風味が格段に上がります。
地中海沿岸では古くから月桂樹を神聖視する風習があり、
勝利者の名誉を称えるために与えられてきました。
料理の風格を高める月桂樹には人を幸福にする不思議な力があると
古来より信じられてきたのではないでしょうか。
それは和食における昆布も同じではないかと私は考えています。
昆布が使われるのはおいしい出汁を取るためだけではありません。
縁起物として様々な祝事に珍重されています。
結納や結婚の祝儀では「子生婦」と書いて子孫繁栄を願います。
お正月には「喜ぶ」ものとして鏡餅と一緒に飾ります。
大相撲では力士の無事を祈願して米や塩などと一緒に土俵に埋めます。
これを「鎮め物」というそうです。いわばお清めの奉納です。
福茶には昆布や梅干しや炒った黒豆などを入れます。
邪気を払い無病息災のご利益があると信じられています。
昆布には旨みを引き出す力だけでなく人に幸福をもたらす力があると
昔の人々は考えてきたようです。
その点は月桂樹も昆布もたいへんよく似ていると思います。
料理においても文化的な意味においても価値のある食材です。
ただし違う点もあります。
月桂冠はあっても昆布冠がないことです。
その代わり和食の世界には昔から「細工昆布」があります。
昆布を使って扇の形や菊の花の形を作る技能です。
二枚の昆布を網状に組んだ「吉祥昆布」も細工昆布の一つです。
吉祥とは縁起の良い形のことをいいます。
おそらく食べる人の幸福を願って作られたのではないでしょうか。