その昔、魏の国に華佗(かだ)という伝説的な名医がいました。
あらゆる医療について非凡な才能を持っていました。
その活躍は三国志にも描かれています。
現代でいえばブラックジャックのような天才医師だったようです。
お正月のお屠蘇(とそ)を発案したのも彼だといわれています。
医学だけでなく薬の処方にも通じていました。
あるとき華侘の許に食中毒で死にかけている子どもが運ばれてきました。
一見してもう助からないと思われるほどの重症でした。
華侘は赤ジソの葉を煎じた紫色の薬湯を子どもに飲ませました。
すると子供はたちまち蘇生し、周りの人々は驚きました。
それ以来この紫色の蘇りの薬草を「紫蘇」と呼ぶようになったそうです。
あくまで言い伝えですが。
紫蘇はシソ科シソ属の植物です。
ヒマラヤ辺りが原産ではないかと考えらえています。
赤紫色の「赤ジソ」と緑色の「青ジソ」があります。
縮れていない青ジソのことを「大葉」と呼ぶこともあります。
青ジソは通年入手できますが、赤ジソの旬は初夏に限られます。
偶然にも梅の季節と一致します。しかも梅干しとの相性は抜群です。
合縁奇縁というのか一期一会というのかわかりませんが、
初夏の梅と赤ジソには不思議な「出会いの妙」を感じます。
私はこれを和食における「三大妙縁」の一つに勝手に定めています。
ちなみに残りの二つの妙縁もご紹介しておきましょう。
春のタケノコとワカメ、秋のサンマとスダチです。
いずれも旬の季節が偶然に合うだけでなく、組み合わせることによって
相乗的なおいしさを引き出すことができる食材です。
もっとも相性のよい組み合わせは他にもたくさんあります。
初ガツオと新タマネギ、寒ブリとダイコンなどもそうです
私の独断で定めた三大妙縁ですのでご容赦ください。
梅干しと一緒に漬けた赤ジソはさまざまな料理に使われます。
乾燥させた「ゆかり」はご飯の友に最適です。
しかし赤ジソの風味を純粋に味わうならばシソジュースがお薦めです。
まず赤ジソの葉を茎から取って丁寧に水で洗います。
鍋にたっぷりのお湯を沸かして赤ジソの葉を煮出します。
面白いことに赤ジソの赤い色素がお湯に溶け出すと
葉の色が青ジソのような緑色に変わります。
葉を取り出して鍋に上白糖と酢を加えます。
私はいつもワインヴィネガーやアップルヴィネガーを使っています。
酢を入れた瞬間に赤紫色が目にも鮮やかなルビー色に変わります。
赤ジソの色素が酢に反応して起こる現象ですが何とも不思議です。
出来上がったシソジュースは鍋から保存用のビンに移し替えます。
冷蔵庫でよく冷やして氷水や炭酸水で割っていただきます。
赤ジソの風味と何よりも赤ジソの美しい色を楽しむことができます。
暑気を払って爽やかな気分になる最高の夏の飲み物です。
ぜひお試しください。ただし瀕死の食中毒には効果はありません。