小豆の中でも粒の大きいものを大納言といいます。
ただし大納言という品種があるわけではありません。
丹波、とよみ、アカネなどの品種を総称して大納言と呼んでいます。
大納言は単に粒が大きいだけではありません。
普通の小豆よりも糖分が多く味が濃いのが特徴です。
そのため高級和菓子などに使われます。
ところで、どうして大納言という名がついたのでしょうか。
以前日本史の先生に教えていただいた説では尾張大納言に由来するそうです。
尾張、紀州、水戸の徳川御三家の中で尾張徳川家は筆頭格の家柄です。
尾張原産の小豆の中にそれはそれは見事な大粒の実がありました。
その別格の小豆を尾張徳川家にあやかって大納言と名づけたと伝えられています。
広辞苑を調べてみても確かにそのような説明が載っています。
しかし、もう一つ別の有力な説もあります。
大納言とはもともと公家の官職ですが、やがて武家にも与えられました。
とはいえ、武士なら誰でもよいというわけではありません。
相当に身分の高い由緒正しい家柄でなければなりません。
御三家の水戸徳川家でさえ大納言を賜ることなく中納言に甘んじていました。
ですから大納言を奉じるような武家であれば様々な特権が与えられます。
例えば殿中で刀を抜いても罪を問われません。
通常は宮中や殿中で刀を振り回せば腹を切らなければなりません。
殿中で吉良上野介に斬りつけた浅野内匠頭長矩は切腹を命じられました。
内匠頭(たくみのかみ)とは官職名です。
大納言に比べるとかなり格下の役職です。
今の時代でいえば不祥事を問われる中間管理職でしょうか。
殿中での刃傷の責任を取って文字通り詰め腹を切らされたわけです。
もし浅野長矩が大納言であれば切腹しなくても済んだのでしょうが、
それでは忠臣蔵の名作は生まれていませんね。
ちょっと話が逸れてしまいました。
小豆の話に戻りましょう。
小豆は皮が柔らかい豆です。
煮るとすぐに実が割れてしまいます。
その点、大納言は煮ても実が割れにくい小豆です。
切腹しない豆なので大納言と名づけられたということです。
しかし実際は、割れにくいのであって割れないわけではありません。
どんな小豆でもことこと煮込めば柔らかくなります。
そのため慶事の料理に小豆を使うことを避ける傾向があります。
とくに江戸を中心とする武家の食文化では縁起を重視します。
切腹を連想させるような食材は絶対に使いません。
鰻の蒲焼きも腹開きではなく背開きにします。
当然お赤飯にも小豆を使いません。
ささげという皮の硬い豆を使います。
ささげは煮崩れせず大粒で色鮮やかです。
お赤飯を美しく彩ります。
ただし味の方は小豆にはるかに劣ります。
あまり美味しい豆ではありません。
決してささげを悪くいうつもりはないのですが、
お赤飯意外の料理に使われるのを私は知りません。
味よりも体面を重んじる武家のための食材といえます。