それを干した柿も市田柿と呼びます。
ですから柿の品種名でもあり干し柿のブランドでもあります。
南信州の特産品です。
一方あんぽ柿は干し柿の名前ですが品種名ではありません。
蜂屋(はちや)柿や平核無(ひらたねなし)を使って作られます。
水分が高く、干し柿なのに半生状の柔らかさを持つのが特徴です。
私は福島県の生まれで小さい頃からあんぽ柿を食べてきました。
しかしなぜあんぽ柿という名前なのか一度も考えたことがありませんでした。
一説によると「あまほし柿」が変化したのではないかといわれています。
「あまほし」とは「甘干し」または「天干し」の意味です。
今はほとんど使われていませんが、私が子どものころは
「あんぽんたんのつるし柿」という言葉がありました。
いわゆる言葉遊びの一種です。
「その手は桑名の焼きハマグリ」や「恐れ入り谷の鬼子母神」と同じです。
「あんぽんたん」とは漢字で安本丹と書きます。
アホタラが撥音化したというのが定説です。
ですからあまり良い意味の言葉ではありません。
地方によってはかなり侮蔑的な響きがあるそうです。
私の故郷ではそこまで強い言葉ではありませんでした。
せいぜい「おっちょこちょい」程度の意味だと思います。
ですから使い方も穏やかです。
お弁当にお箸を忘れるなんてあんぽんたんのつるし柿だね。
といった感じです。
しかしあんぽ柿は全くあんぽんたんではありません。
むしろ優れた製法によって生み出された逸品です。
その秘訣は硫黄燻蒸にあります。
硫黄燻蒸とは硫黄を燃焼させて発生した亜硫酸ガスで
干し柿をいぶすという方法です。
それによって鮮やかな柿の色を保ちカビの発生を防ぐことができます。
防腐効果があるために水分が高くても比較的長く保存が可能です。
亜硫酸ガスは様々な食品に使われています。
じつは有害な物質なのですが、燻蒸してから柿を干している間に
完全に揮発するので健康に害はありません。
この硫黄燻蒸はアメリカの干しブドウの製法に学んだそうです。
研究を重ねて干し柿にも応用できるようにしました。
おかげでおいしい干し柿を食べることができるようになりました。
あんぽ柿の研究開発に携わった先人には頭が下がります。
あんぽ柿は決してあんぽんたんのつるし柿ではありません。