おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

お粥さん

お粥のことを関西ではお粥さんと呼びます。

発音は「おかゆさん」よりも「おかいさん」に近いようです。

 

さん付けで呼ばれるのはお稲荷さんと同じように

庶民的に親しまれているからです。

 

お粥さんは消化によく体も温まります。

 

風邪のときや胃腸が弱っているときばかりではありません。

朝食の定番として広く食べられています。

 

禅宗でも朝ご飯のことを粥座(しゅくざ)といいます。

修行の一環として作法に則りお粥さんをいただきます。

 

むしろ歴史的にいえば白米のご飯を食べるよりも

お粥さんの方が一般的だったのではないでしょうか。

 

米が貴重だった時代、日常的に白米のご飯を食べるのは

ごく一部の限られた身分の人々です。

 

多くの庶民は水を多くしてご飯を柔らかく炊いていました。

お粥さんにすることによって量が増えるからです。

 

ヒエやアワなどの雑穀や豆やイモやダイコンや菜っ葉を加えて

とにかくお腹いっぱい食べることを工夫していました。

 

芥川龍之介の小説に「芋粥」という作品があります。

平安時代の下級役人が飽きるほど芋粥を食べたいと願う話です。

 

お粥さんに芋を入れるだけの単純な料理であっても

昔の人々にとってはご馳走だったのです。

 

さん付けしたくなる気持ちもたいへんよくわかります。