おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

ミョウガの宿

落語に「ミョウガの宿」という演題があります。

こんな話です。

 

あるところに欲の深い夫婦が営む旅籠がありました。

部屋は汚く飯も不味いので泊まる客はめったにありませんでした。

 

あるとき身なりのよい旅人が一夜泊まることになりました。

見ると大きな荷物を抱えています。

 

きっとたくさんのお金が入っているにちがいありません。

旅人が荷物を置き忘れてくれたらいいと夫婦は思いました。

 

そこで欲深い夫婦は悪いことを企みました。

それは旅人にミョウガを食べさせることです。

 

ミョウガを食べると物を忘れるといいます。

たくさん食べさせて荷物を忘れさせようとしたのです。

 

ミョウガなら宿の裏にいくらでも生えています。

元値もほとんどかかりません。

 

その日の夕飯はミョウガ尽くしの料理でした。

 

ミョウガご飯、ミョウガの吸い物、ミョウガの天婦羅、ミョウガの田楽、

ミョウガの甘酢和え、ミョウガのお浸し、ミョウガの浅漬け、などなど。

 

ミョウガは旅の疲れをいやします。

どうぞたくさんお召し上がりください。

 

旅人は大喜びでした。

こんな珍しい料理は食べたことがありません。

 

翌朝旅人は満足して旅立っていきました。

 

さて部屋に忘れ物はないかと夫婦は探しました。

ところが何も見当たりません。

 

おかしいな。忘れ物がない。

いや、あった。大切なものを忘れていった。

何を。

宿賃の支払いを忘れていった。

 

夫婦はがっかりしてしまいました。

欲張りは損をするという噺でした。

 

落語はここで終わりますが後日談もあります。

 

その後この旅籠は「ミョウガの宿」として知られるようになり

多くの泊まり客で賑わいましたとさ。