胡麻の「胡」とは古代中国語で西方の地域や民族のことを意味します。
胡麻だけでなく胡桃(くるみ)、胡椒(こしょう)、胡瓜(きゅうり)にも
「胡」の字が用いられています。
おそらくこれらの食材はシルクロードを経由してペルシャやインドから
中国に伝えられたと考えられます。
胡麻はアフリカ大陸に野生種が多く自生しています。
サバンナ地域が原産地ではないかと推測されています。
紀元前からナイル川流域で栽培されてきました。
古代エジプトでは薬用として利用されていたことがわかっています。
クレオパトラも美容のために胡麻を愛用したと伝えられていますが、
真偽ははっきりしていません。
日本では奈良時代頃から栽培され始めました。
油を搾って食用とする他に灯火の燃料としても使われました。
長い歴史を通して胡麻は日本料理に欠かせない食材になりましたが、
中でも胡麻豆腐は最も洗練された日本料理であると私は考えます。
胡麻豆腐は禅寺の精進料理として知られていますが、
胡麻を口当たりよく擂り上げるのは結構たいへんな作業です。
禅寺ではそれも僧侶の修行の一環として行われています。
炒った胡麻をねっとりするまで擂ってペースト状にします。
裏漉しにかけてから和紙に包んで余分な油を抜きます。
吉野の本葛粉を胡麻に練り込みよく混ぜ合わせます。
出汁を合わせてもう一度裏漉しにかけます。
弱火にかけながらゆっくりと練り上げます。
火が通ったら型に流し込んで固めます。
冷蔵庫でよく冷やして小鉢に切り分けワサビを添えます。
胡麻の香りとつるりとした食感と深い味わいは絶品です。
作り方は簡単ですが手をかけるほどおいしくなる不思議な料理です。