子どもの頃にこんな民話を読んだことがあります。
ある漁師が海で魚を獲っているとたいへん珍しい魚が網にかかりました。
ウロコが虹色に輝いています。
漁師はその魚を持ってお城に行き、お殿さまに献上しました。
お殿さまはこの魚を見て大いに喜びました。
「この魚は何という名じゃ」とお殿さまは尋ねました。
漁師も初めて見る魚ですから名前など知りません。仕方なくこう答えました。
「これはピカピカリンと申します。」
「そうか。変わった名じゃの。」
漁師はご褒美をいただいて帰りました。
お殿さまはこの美しい魚を食べるのが惜しいので干物にすることにしました。
ところが干物にするとウロコの虹色の輝きが消えてしまいました。
これでは他の魚の干物と変わるところがありません。
お殿さまはがっかりしてしまいました。
そして褒美を与えた漁師のことが急に腹立たしくなりました。
漁師をお城に呼びつけて干からびた魚を見せました。
「この魚は何という名じゃ」とお殿さまは尋ねました。
漁師はこんな干物を見たことがありません。仕方なくこう答えました。
「これはカラカラリンと申します。」
「うそを申せ。その方はこれをピカピカリンと申したではないか。
干したからといって名前が変わるはずはない。さてはわしをだましたな。」
お殿さまの怒りは収まらず、漁師の首を刎ねるように家来に命じました。
漁師はすっかり観念してこう言いました。
「最後に我が子に会って言い残したいことがございます。」
漁師の子がお城に呼び出されました。漁師は子に語りかけます。
「これから申すことはわし遺言じゃ。よく聞け。
今後は何があってもイカを干したものをスルメと呼んではいかん。
首を刎ねられるぞ。よいな。」
これを聞いたお殿さまは「なるほど、その通り」と感心しました。
漁師は許され、さらにご褒美をいただいて帰りましたとさ。