おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

卵かけご飯

海外では一般に鶏卵を生で食べることはありません。

たいていは加熱調理します。

 

それは「サルモネラ菌」による食中毒を避けるためです。

 

日本では生で食べることを前提に鶏卵を生産しています。

 

そのため出荷前に卵を完全洗浄して殺菌しています。

次亜塩素酸ナトリウム」という消毒剤を使うこともあります。

 

しかも一つ一つの卵に産卵日や賞味期限を表示しています。

 

もちろん生で食べる以上は、絶対に安全ということはありません。

それは卵だけでなく、全ての生鮮食料品に言えることです。

 

しかし高い安全基準が設けられていることはありがたいことです。

おかげで日常的に生卵を食べることができます。

 

最も一般的な生卵の食べ方といえば「卵かけご飯」です。

他の国ではほとんど見られない日本特有の食習慣です。

 

卵を溶いて醤油を加えご飯にかけて混ぜながら食べます。

単純ながら深い滋味のある料理です。

 

料理といえるかどうかわかりませんが。

 

卵かけご飯にもちょっとしたコツがあります。

熱々の炊き立てご飯を使わないことです。

 

ご飯が熱すぎると卵が熱で半熟状態に固まってしまいます。

そうなると舌触りが悪くなってしまいます。

 

やはり卵かけご飯はチュルチュルとした食感が魅力です。

 

もう一つのコツは急いで食べることです。

時間が経つとご飯の粒が卵の水分を吸ってふやけてしまいます。

 

麺類でいうところの「のびた」状態になります。

これまた舌触りが悪くなってしまいます。

 

多少行儀が悪くてもすするように食べるのが正しい食べ方です。

 

最近は日本にやってくる外国の観光客にも人気だそうです。

今までに経験したことのない新しい食べ方なのかもしれません。

 

月見丼

月見そばや月見うどんのように卵を乗せた料理を「月見」と呼びます。

月見丼もその一つです。

 

ご飯の上にただ卵が乗っているだけではありません。

肉や魚や野菜などを使った料理と組み合わせた丼です。

 

たとえば鶏肉のそぼろやイカの納豆和えやキノコの甘辛煮などです。

それらをご飯に乗せて真ん中に卵を添えると月見丼になります。

 

一つの料理名でこれほど多彩なメニューができる丼は他にありません。

月見丼は見た目も味も楽しめる創造性豊かな丼です。

 

ところで、究極の月見丼というものがあります。

目玉焼きがご飯に乗っているだけの丼です。

 

正しくは「目玉焼き丼」というべきかもしれません。

 

熱々の目玉焼きに醤油をたらりとかけていただくのが最高です。

卵の黄身と醤油がご飯と相まって絶妙の美味しさです。

 

卵かけご飯とはまた別の楽しみ方です。

ぜひお試しください。

 

木の葉丼

木の葉丼は衣笠丼に似ています。

 

お揚げの代わりに、短冊に切った蒲鉾を使った丼です。

薩摩揚げや竹輪を使うこともあるそうです。

 

衣笠丼と同じように甘辛く煮て卵でとじてご飯に乗せます。

シイタケやタケノコが入ることもあります。

 

三つ葉を散らすところが木の葉丼のポイントです。

 

蒲鉾の紅白、卵の黄色、青ネギと三つ葉の緑が色鮮やかです。

まさに木の葉のように美しい丼です。

 

衣笠丼の発祥は京都ですが、木の葉丼の発祥はわかっていません。

しかし関西地方を中心に昔から親しまれてきた丼です。

 

木の葉丼の具をうどんに乗せても美味しそうですが、

木の葉うどんというのは聞いたことがありません。

 

しかし美味しいものを見逃さない関西の食通の人々の間では、

じつはもう木の葉うどんが一般的なのかもしれません。

 

衣笠丼

衣笠丼は京都発祥の丼物です。

 

甘辛く煮たお揚げと青ネギを卵でとじてご飯に乗せた丼です。

青ネギには九条ネギを使うのが京都流です。

 

衣笠丼の名前は京都の衣笠山に由来します。

 

衣笠山は、宇多天皇が真夏に雪景色を見たいと所望されたときに

白絹をかけた伝承から「絹かけ山」とも呼ばれています。

 

それに見立てて衣笠丼と命名されたと伝えられています。

ですから「絹笠丼」と表記することもあります。

 

卵でとじないものを「きつね丼」と呼ぶそうです。

きつねうどんの具がそのままご飯に乗った感じでしょうか。

 

地域によっては、卵でとじるものも「きつね丼」と呼ぶそうです。

その辺りは、きつねだけに変幻自在です。

 

ピーナッツはピーなのかナッツなのか

ピーナッツは日本語では落花生といいます。

花が落ちて実が生ることから落花生と名づけられました。

 

花が咲いた後に子房の蔓が伸びて地中に潜り込みます。

地中で子房が膨らんで結実したものが落花生です。

 

一般には、殻が付いた状態の豆のことを落花生と呼び、

殻を取り除いた豆のことをピーナッツと呼ぶ傾向があります。

 

英語のピーナッツはピーとナッツを組み合わせた名前です。

ピーはエンドウ豆のことで、ナッツは木の実のことです。

 

しかしピーナッツは豆類ではありますが、エンドウ豆ではありません。

まして木の実ではありません。

 

ナッツに分類されてしまうのは脂肪分が高いからかもしれません。

栄養も味覚も食感も木の実と言っても遜色ない食材です。

 

実際にクルミ、アーモンド、カシューナッツ、ピスタチオと一緒に

ミックスナッツとして供されることもあります。

 

ナッツに勘違いされてしまうことをどう感じているのか

ピーナッツ本人の意見を聴いてみたい気がします。

 

ところで、ピーナッツというタイトルの有名な漫画があります。

スヌーピーやチャーリーブラウンが登場するあの漫画です。

 

作者のシュルツ氏はこのタイトルがあまり好きでなかったそうです。

編集者が勝手に名づけてしまったと伝えられています。

 

英語のピーナッツには「つまらないもの」の意味があります。

またナッツ自身にも「愚かもの」の意味があります。

 

もちろん編集者にそうした悪意があったわけではありません。

ピーナッツでも食べながら気軽に読んでほしいと考えたそうです。

 

その願いが叶ったのかどうかわかりませんが、

ピーナッツという漫画は50年も連載が続きました。

 

その愛され方はまさにピーナッツにも劣らないほどでした。

 

スイカは野菜かフルーツか

イカは夏を代表する果物ですが、野菜に分類されることがあります。

はたしてスイカは果実なのでしょうか、野菜なのでしょうか。

 

農林水産省の定義では「果実的野菜」と呼ばれています。

つまり果実的であってもじつは野菜だということです。

 

イカの他にメロンやイチゴも同じように果実的野菜に属します。

 

しかし果物として扱っていけないわけではありません。

イカもメロンもイチゴも一般的に果物として売られています。

 

そもそも野菜と果物の違いは何でしょうか。

野菜とは、田畑で栽培される作物で加工しないものを指します。

 

たとえばサトウキビはサトウキビ畑で栽培されますが、

砂糖に加工されるので野菜ではありません。

 

一方、果実は果樹に実る作物のことを指します。

単年ではなく数年にわたって収穫できることも条件です。

 

ですからアボカドは果実に分類されるそうです。

いわば「野菜的果実」といえるかもしれません。

 

土用丑の日が二回ある理由

令和二年は土用丑の日が二回あります。

令和元年は一回しかありませんでした。

 

土用丑の日が一年に二回あるときは、

一の丑、二の丑と呼ばれることがあります。

 

土用丑の日はどのように決まるのでしょうか。

そもそも土用とは何でしょうか。

 

土用は二十四節気に由来する暦日のことです。

 

立春立夏立秋立冬を四立(しりゅう)といいますが、

四立の直前の十八日間が土用に当たります。

 

ですから土用は一年に四回あります。

 

一般に土用といえば夏の土用のことを指します。

立秋前の七月下旬から八月上旬までが夏の土用です。

 

土用の初日のことを土用の入りといいます。

土用の最終日は節分にあたります。

 

節分は四立の前日で季節の分かれ目のことですが、

一般に節分といえば立春の前日のことを指します。

 

丑の日は十二支を使った日にちの表し方です。

子の日から亥の日まで全部で十二種の日があります。

 

昔から年や日や時間や方角を表すのに十二支が使われています。

十二年に一度丑年があるように十二日ごとに丑の日がやってきます。

 

土用は十八日間ですから丑の日はその間に一回または二回あります。

平均すると二年に一度は二の丑があることになります。

 

二の丑があると鰻の消費量が二倍になるかというとならないようです。

 

一年に一度は鰻を食べたいと思うことはあっても、

十二日後にもう一度とはあまり思わないのかもしれません。

 

たとえるならば、クリスマスが一年に二回あったとしても

十二日後にまたケーキを食べたいと思わないのと同じです。

 

それとも甘いものは別腹でしょうか。